【VO2max季節変動の真実】夏に下がる?冬に上がる?リアルな論文だとどうなんだろ?

VO2maxを気にしている皆さんようこそ!
こんな経験ありませんか?
- 「夏になったらGarminのVO2maxが下がった…」
- 「冬のほうが数値いいんだけど、なんで?」
- 「これって実力落ちてるの?それとも気のせい?」
結論から言います。
季節によるVO2maxの変動は「本当にある」。 でも、デバイスが表示するほど大きくはない。
この記事では、
- 本当に季節で変動するのか?
- 変動するなら、どれくらい?
- なぜ変動するのか?
- ロードバイク乗りはどう対応すべきか?
そもそもVO2maxって季節で変わるの?
答え:YES、変わります
これは科学的に証明されています。
1982年のデンマークの研究で、面白い実験が行われました。
実験内容:
- 若い男性のVO2maxを夏と冬で測定
- トレーニング量は同じになるよう管理
結果:
- 夏のVO2maxは冬より7.4%高かった
つまり、トレーニング量が同じでも、季節だけでVO2maxは変わるということです。
これが「季節変動は存在する」という科学的な根拠になります。
どれくらい変動する?
「変動する」のはわかった。 じゃあ、どれくらい変動するのか?
■ 2種類の変動を分けて考える
| 種類 | 内容 | 変動幅 |
|---|---|---|
| TYPE A:デトレーニング効果 | 冬にトレーニング量を減らしたことによる低下 | 4〜15% |
| TYPE B:純粋な季節効果 | トレーニング量が同じでも起こる低下 | 3〜7%(うち実際の能力低下は2〜4%程度) |
多くの人が経験する「冬のVO2max低下」は、この2つが合わさったものです。
■ TYPE A:デトレーニング効果(トレーニングを減らした場合)
2022年のメタ分析(複数の研究をまとめた分析)によると:
| 休養期間 | VO2max低下率 |
|---|---|
| 30日未満の休養 | 約4% |
| 30日以上の休養 | 約9% |
| 2ヶ月以上ほぼ乗らない | 15〜20% |
これが「オフシーズンに落ちる」の正体です。
■ TYPE B:純粋な季節効果(トレーニング量が同じ場合)
「同じトレーニングをしていても、季節だけで変動するのか?」
これを調べた研究は実は少ないのですが、いくつかデータがあります。
① 1982年のデンマーク研究(Ingemann-Hansen)
よく引用される「夏は冬より7.4%高い」という研究です。
ただし注意点があります。
- 同じ人を夏と冬で測ったのではなく、夏に測ったグループと冬に測ったグループを比較した
- 両グループの活動量は揃えてあったが、完全に同一条件ではない
それでも、活動量が同じでも季節差があることを示した重要な研究です。
② 日本人サイクリストの年間データ
50代の日本人サイクリストが、スマートトレーナーで冬も室内トレーニングを継続しながら記録したデータ:
- 夏:VO2max 57
- 冬:VO2max 53
- 変動幅:約7%(4ポイント)
室内で暖房をつけてトレーニングしても、これだけ変動したという報告です。
③ エリートクロスカントリースキー選手の研究(2012年)
13人の選手を1年間追跡した結果:
- VO2maxに有意な季節変動はなかった
ただし、この選手たちはトレーニング量を季節で調整していたので、「トレーニング一定」とは言えません。
もう少し詳しく論文やリアルデータ等々
情報源①:科学論文のデータ
研究者がラボで正確に測定したデータです。
| 研究内容 | 対象者 | 変動幅 |
|---|---|---|
| 5週間トレーニングを完全にやめた | エリートU23サイクリスト | -8〜11% |
| シーズン中→オフシーズン | プロサイクリスト | -9.5% |
| 8月→12月の変化 | 大学女子アスリート | -8.9% |
| 夏と冬の比較(トレーニング管理下) | 一般男性 | 7.4%の差 |
論文からの結論:
- 完全にトレーニングをやめると、約8〜11%低下
- シーズン変動では**約7〜10%**の差がある
情報源②:海外サイクリストのリアルな報告
次に、TrainerRoadやRedditなどの海外フォーラムで、実際のサイクリストがどれくらいFTPが落ちたか報告しているデータを集めました。
FTPはVO2maxと連動するので、参考になります。
| 報告内容 | 休んだ期間 | 低下率 |
|---|---|---|
| 328W→298W | 2.5ヶ月の冬季休養 | -9% |
| 328W→297W | 冬の間(軽く乗ってた) | -9.5% |
| 284W→241W | 2ヶ月完全オフ | -15% |
| 283W→268W | シーズン終了(軽く乗ってた) | -5% |
フォーラムでの共通認識:
「10%落ちるのは普通。それ以上落ちたら休みすぎ」
リアルデータからの結論:
- 何かしら乗っていれば:5〜10%の低下
- 完全に乗らないと:15〜20%の低下
情報源③:Garminユーザーの報告
最後に、Garminフォーラムで報告されている数値の変動です。
| 報告内容 | 下記期間とその他シーズンの違い |
|---|---|
| 58→54(4ポイント低下) | 冬の10週間 |
| 57→50(7ポイント低下) | 秋の3週間 |
| 54→44(10ポイント低下) | インドアトレーニングに切り替えた時 |
| 「毎年冬に約10%落ちる」 | 5年間の観察 |
Garminデータからの結論:
- デバイス表示では**4〜10ポイント(約7〜17%)**の変動が見られる
3つの情報源を比較してみる
| 情報源 | 変動幅 |
|---|---|
| 科学論文 | 7〜11% |
| サイクリストのリアル報告 | 5〜15%(平均9〜10%) |
| Garminの表示 | 7〜17% |
気づきましたか?
Garminの表示が一番大きく動いています。
これには理由があります。次のセクションで説明します。
なぜ季節で変動するのか?4つの理由
VO2maxが季節で変動する理由は、大きく4つあります。
理由①:血液の量が変わる
人間の体は、暑さに適応するために血液(正確には血漿)の量を増やします。
- 夏:血漿量が約5%増える
- 冬:血漿量が約3%減る
年間で約8%の差が生まれます。
血液量が増えると心臓が一度に送り出せる血液が増えるので、酸素を運ぶ効率が上がります。
だから夏のほうがVO2maxが高くなりやすいのです。
…でも待ってください。 「夏のほうがVO2max下がるんだけど?」という人も多いですよね。
それは次の理由が関係しています。
理由②:暑いと心拍数が上がる
暑い環境では、体を冷やすために皮膚に血液を送る必要があります。
すると、筋肉に送れる血液が減ります。
同じ運動をしていても、暑い日は心拍数が10〜20bpm高くなることがあります。
GarminなどのデバイスはVO2maxを心拍数から推定しています。
つまり、
- 暑い日に走る
- 心拍数が高くなる
- デバイスが「この人、同じペースなのに心拍高いな。体力落ちてる?」と判断
- VO2max推定値が下がる
実際の能力は落ちていなくても、デバイスの数値は下がるのです。
理由③:空気の密度が変わる
これは意外と知られていない事実です。
暑い日は空気が薄くなります。
気温38℃の海面は、涼しい日の標高800m相当の酸素量しかありません。
真夏に「今日やけにキツイな…」と感じるのは、気のせいではなく、本当に酸素が少ないからです。
理由④:体重が変わる
VO2maxは「1kgあたり、1分間に取り込める酸素量」で計算されます。
単位:ml/kg/分
つまり、体重が増えれば、自動的に数値は下がります。
冬は忘年会、正月、鍋…体重が増えやすい季節です。
体重が1kg増えるだけで、VO2maxは約1.4%下がって表示されます。
デバイスの数値が大きく動く理由
ここまで読んで、
「論文では7〜11%なのに、Garminは7〜17%も動くの?」
と思った方、鋭いです。
デバイスの数値が大きく動く理由は「測定誤差」が含まれているからです。
デバイス推定値に影響を与える要因
| 要因 | 数値への影響 |
|---|---|
| 冬の寒さ | 厚着で重くなる、ペースが落ちる、心拍計の精度低下 → 低く出る |
| 夏の暑さ | 心拍数が上がる → 低く出る |
| インドアトレーニング | 熱がこもって心拍上がる → 低く出る |
| 光学式心拍計の寒冷時精度 | 7℃以下で精度が落ちる → 異常値が出やすい |
つまり、こういうこと
デバイスが表示する変動 = 本当の変動 + 測定誤差
例えば、Garminで10ポイント下がったとしたら、
- 本当の能力低下:5ポイント分
- 測定誤差:5ポイント分
こんな内訳かもしれません。
「デバイスの数値を鵜呑みにしない」
これが大事です。
結局どれくらい変動するの?最終結論
3つの情報源と、測定誤差の存在を踏まえて、最終的な結論を出します。
ロードバイク乗りのVO2max季節変動幅
| タイプ | 変動幅の目安 |
|---|---|
| 冬も週1回以上乗っている人 | 5〜10% |
| 冬は完全にオフの人 | 12〜20% |
| 年間通じて高強度トレーニングを継続している人 | 3〜7% |
一番重要な発見
研究で判明した、非常に実用的な事実があります。
「7〜10日に1回、高強度トレーニングをすれば、VO2maxはほぼ維持できる」
つまり、週1回だけでも追い込む練習をしていれば、大きく落ちることはありません。
逆に、完全にオフにすると、15〜20%落ちることもあります。

あくまでVo2maxを下げない観点での話です。一度下げてリセットするメリットはあるはずです。
ガチ勢向け:季節変動への対策
年間のトレーニング計画
| 時期 | やること | 目的 |
|---|---|---|
| 10-11月 | 2-4週間休む→軽いライド | 心身のリセット |
| 12-2月 | ベース作り+週1-2回の高強度 | VO2maxの「天井」を上げる |
| 3-4月 | SST・FTPトレーニング | VO2maxをFTPに変換 |
| 5-9月 | レース+維持トレーニング | ピーク維持 |
ポイント
- 冬でも週1回は高強度を入れる(これだけで変動を最小化できる)
- テスト条件は毎回同じにする(気温、時間帯、ウォームアップ)
- インドアと屋外の数値は別物として扱う
暑い時期のレース対策
暑熱順化という方法があります。
- レースの1-2週間前から開始
- 運動後にサウナ30分、または40℃の風呂に入る
- これを7-10日続ける
暑さへの適応は、涼しい日のパフォーマンスも5-8%向上させるという研究結果があります。
一般勢向け:気にしすぎない心得
VO2maxが下がっても気にしなくていい場面
- ✅ 夏の暑い日に走った後
- ✅ インドアトレーニングに切り替えた直後
- ✅ 回復週
- ✅ 風邪を引いた後
- ✅ 1回だけの異常値
これらは一時的な変動か、測定誤差です。
実力が落ちたわけではありません。
気にしたほうがいい場面
- ⚠️ 4週間以上、継続的に下がり続けている
- ⚠️ 疲れが取れない、眠れない、安静時心拍が高い
- ⚠️ ちゃんとトレーニングしているのに上がらない
こういう場合は、オーバートレーニングや体調不良の可能性があります。
冬のモチベーション維持
「10分だけやろう」ルール
乗る気がしない日は、「とりあえず10分だけ」と決めて始める。
10分経っても乗りたくなければ、やめてOK。
でも、90%の確率で、始めれば最後までやれます。
最初の一歩が一番重いんです。
まとめ
この記事でわかったこと
| 疑問 | 答え |
|---|---|
| VO2maxは季節で変動する? | YES、科学的に証明されている |
| どれくらい変動する? | 週1回乗ってれば5〜10%、完全オフなら12〜20% |
| デバイスの数値は正確? | 測定誤差が含まれるので、実際より大きく動いて見える |
| 変動を防ぐ方法は? | 週1回の高強度トレーニングでほぼ維持できる |
覚えておいてほしいこと
- 季節変動は普通のこと。焦らなくていい
- デバイスの数値は参考程度に
- 週1回の高強度で大きな落ち込みは防げる
- 単発の数値より、4週間以上のトレンドを見る
最後に
「自転車選手は冬作られる」
という言葉があります。
冬に地道にトレーニングを続けた人が、春に花開く。
季節変動を理解していれば、夏にVO2maxが下がっても慌てないし、冬の数値が良くても浮かれません。
数字に振り回されず、一貫して続けること。
これが一番の近道かもしれません。(高強度、Vo2max抜きにしてもですね♪)
引用元・参考文献
論文・学術資料
- Maldonado-Martin S, et al. (2017) – Elite U23 cyclists detraining study
- Lorenzo S, et al. (2010) – Heat acclimation and cardiovascular adaptations in cyclists
- Sassi A, et al. – Professional cyclists seasonal VO2max variation study
- Miller T, et al. (2007) – Division 1 female athletes seasonal fitness changes
- Ingemann-Hansen T, Halkjaer-Kristensen J. (1982) – Seasonal variation in maximal oxygen uptake
- Rønnestad BR, et al. – Off-season high-intensity training maintenance study
- Sawka MN, et al. (1985) – Environmental heat stress and VO2max
公式ドキュメント
- Firstbeat Analytics. “VO2max Estimation Method” White Paper (2017) https://assets.firstbeat.com/firstbeat/uploads/2017/06/white_paper_VO2max_30.6.2017.pdf
- COROS Help Center. “EvoLab: Common Questions” https://support.coros.com/hc/en-us/articles/4404046152212-EvoLab-Common-Questions
- Garmin Blog. “2024 Garmin Connect Data Report” https://www.garmin.com/en-US/blog/general/2024-garmin-connect-data-report/
- USA Cycling. “Training and Racing Safely in the Heat” https://usacycling.org/article/training-and-racing-safely-in-the-heat
スポーツサイエンス情報
- PezCycling News. “How Time Off Affects Cycling Fitness” https://pezcyclingnews.com/toolbox/detraining-effects-cycling-fitness-off-season/
- TrainingPeaks. “Heat Training for Cyclists” https://www.trainingpeaks.com/blog/heat-training-for-cyclists/
- DC Rainmaker. “COROS Rolls Out EvoLab” https://www.dcrainmaker.com/2021/05/revamped-training-explainer.html
コミュニティ・フォーラム
- Garmin Forums – VO2max seasonal discussions https://forums.garmin.com/
- TrainerRoad Forum. “Garmin VO2 Max drop” https://www.trainerroad.com/forum/t/garmin-vo2-max-drop/66285
- Bike Forums. “How much FTP do you lose in transition off season?” https://www.bikeforums.net/training-nutrition/1030842-how-much-ftp-do-you-lose-transition-off-season.html
- Yahoo!知恵袋. 「夏ってvo2max下がる、もしくは上がりにくいんですか?」 https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q13230692613







